断章

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独房

 この部屋は独房である。ただここに於いてのみ私の自由・私の創造性・私の奔放さは表現されうる。定期に、あるいはまた不定期に、エートスという名の看守が私の独房にやってきて、目隠しを付けてどこかほかの場所でしかじかの作業をさせる。従わない場合には苦しみ、剥奪、または(今では殆どありそうにもないが)予告された直近の死が待ち受けていることを私は知っている。

 また私のような囚人が他にも沢山いて、囚人によって待遇がかなり違うということも知っている。これくらいは目隠しを付けていても判るのだ。私はまた、独房の外についてほかの囚人が色々な考えを持っていることを聞いている。あるものは外に救い主がおりいつか彼を外に出してくれることをひたすら信じ、あるものはどこかの時点で違う独房に入れられると思っており、またあるものは時がくれば自分が看守の側に回ると感じており、夢を見ているだけだという人もあり、独房の外は存在しないという人もあり、そもそも独房など無いというものもあり・・・・・・。

 ある時私は看守に「この外にはなにがあって、わたしはいつも何の作業をしているのでしょう」と聞いたことがあったが、看守は「お答えしかねます。私の役割はただあなたに作業をさせるということだけですから」としか言わなかった。 囚人どうしは手紙や物のやりとりをする事ができ、私はどうしても独房の外がどうなっているのか知りたく色々な人に手紙を送った。しかしあまり意味のある答えは帰ってこない。第一独房の外で目隠しを外した人がいないのだ。

・・・・・・ある日私は決心した。「看守をぶっ飛ばして、目隠しを外してやろう。」次の日、いつものように看守がやってきて、私に目隠しをし、どこかへ連れ出した。すぐさま私は後ろで私を押さえていた看守を振り切り殴り倒した。

 そうして目隠しを外すとそこにはただ闇があった。看守も居なかった。独房への帰り道もなかった。独房はなかった。そうしてそこで私は永遠に存在した。

 

 

(しかるに、超人は存在し得ない――)